タクシードライバー・呉甄h
 
8月31日(火)〜9月1日(水)/8,9日目
 
 九江の廬山にいたときの話。
 廬山は中国でも屈指の観光名所で、自分が駅に着いた瞬間から観光の勧誘が始まるほど、その熱はすさまじい。ハッキリ言ってウザイ。
 
 自分が九江の駅に着いたのは夜だったので、とにかくホテルに入り、休みたかった。
 しかし、ホテルの小姐たちは、なんとしても明日の廬山ツアーに行かせたいらしく、筆談を交え、一時間以上にもおよぶ交渉をした。
 実はこのとき、現金が底をついていて、翌日の朝一で銀行に行ったとしても、もうツアーが始まる時間を過ぎてしまうからなのだ。
 
 そんなこんなで、自分はバスツアーには参加せず、一人で(少しだけ)廬山を見学することになったのだが、さすがに廬山は広いので、タクシーで廻ることになった。それが決まった時の、小姐のセリフ。
「では、明日の朝、タクシーを一台用意します。あなたの状況をすべて理解した、女性のドライバーが来ますから」
 つまり、そのドライバーと一緒に銀行に行き、両替をすませてから廬山に行けばいい、ということのようだ。やっと話がまとまったので、さっさと寝た。
 
 で、翌朝。
 微妙に遅いモーニングコールの後、フロントに降りてみると、それらしい女性はいない。受付に話してみると、
「ああ、ドライバーはあの人です」
 と、一人の人を指さした。
 …男じゃん。
 まぁそれはどうでもいいか、と思って、彼に「先に銀行に行きたい」と言うと、
「何で?」
 とか言うのだ。しかも、どうやら昨夜飲み過ぎているらしく、フラフラしている。
 結局、「あなたの状況をまるで知らない、宿酔いの兄ちゃん」が派遣されてきたのだ。
 昨日と真反対になっているのに、フロントの連中も何食わぬ顔をしている。さすが中国。もう何も言うまい。
 
 そういうわけで、この呉甄h(ご・しんき)という兄ちゃんと共に、廬山を巡ることになった。
 時間があったので、九江の街や長江の港を見て回り、いろいろと話を聞いた。
 
 廬山に着いてからは、本編に書いたようなトラブルもあったのだが、宿酔いにも関わらず、呉運ちゃんは親切だった。地図を見ながら、廬山の名所をピックアップし、歩くコースとおおよその時間を教えてくれる。一人で来た者にとってはありがたいアドバイスだった(それでも何度か道に迷ったりしたのだが(^_^;)。
 
 足かけ二日の観光も終わり、正午頃、また九江の街へ戻ってきた。
 彼が言った。
「明日は九江を出るんだったな。オレは明日は休みだし、ここは危険な街だから、オレが責任を持って、安全に出発させてやる。夕食は一緒に食おう。『天心快餐』というファースト・フード店で待ってる」
 
 その後、ホテルの小姐とツアー料金のことで話をし、時間を見てその店を探しに外へ出た。
 彼が言うには「すぐそこ」なのだが、九江はけっこう大きな街なので、店もたくさんある。あちこちで聞き回って、やっと天心快餐に着いたときは、もう約束の時間から25分も過ぎてしまっていた。やはり彼の姿もなく、仕方なく一人で食事を済ませ、ホテルに戻った。
 
 翌日になり、彼が迎えに来る時間が来た。
 しかし彼は現れず、フロントに頼んで彼の会社に電話を入れてもらうと、昨夜に仕事が入って、また廬山に行ったらしい。急な欠員でもあったのだろうか。
 結局、一人で九江を出ることになった。
 彼にあげようと、九江にちなんで李俊の絵を描いていたのだが、渡すことは叶わなかった(九江は昔の江州)。
 
 自分が待ち合わせに遅れたから怒ってしまったのか、それとも仕事で仕方なかったのか、今となっては知るすべもない。少し心残りである。
 
 
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