水滸伝に対するリアクション


「水滸伝」は、中国古典小説の超有名ドコロであるが、実際にはどのくらい知られているのか?
1999年秋の中国単独放浪中、特にそんな調査をしようと思ったわけでもないが、交流を重ねた人たちからの水滸伝に対するリアクションを、思い出しつつまとめてみたいと思う。

上海〜杭州
中国一人旅を始めたばかりで、言葉もうまく出ない。食と住で手一杯だったので、水滸伝の話題などかます余裕は無かった。
杭州の駅で駅員さんと仲良くなったとき、「梁山へ行く」と言ったら、「梁山?おお、水滸!」と言われたくらいかな。これくらいはやはり常識なのだろう。

竜虎山
竜虎山は江西省にあり、水滸伝の冒頭で、太尉の洪信が百八の妖魔を逃がした場所である。
現在は、文化大革命の爪痕がようやく消えてきた感じで、道教の聖地として復興しつつある。
観光パンフレットの中にも「百八星が出た穴」と銘打った写真が載せられており、水滸伝との関連は密接な土地である。
この街には長くいたので、いろんな人と親しくなったのだが、水滸伝の話をしたのは、皮肉にも自分を取り調べた警官とだった。
自分はちょっとしたことで竜虎山の警察に軟禁される事態に陥ったのだが(放浪記本編参照)、最後の取り調べが始まるまでの間に、 おもしろ半分で話しかけてきた警官に、自分は水滸伝の話題を挑んだ。以下はその流れ。

警官:「お前、竜虎山に何しに来たんだよ?」
アジ:「オレは水滸伝が好きなんだ。ここは水滸伝に縁のある土地だからな」
警官:「じゃあお前は水滸伝を読んだことあるんだな?」
アジ:「当然」
警官:「どんな話か、説明してみろよ」
アジ:「(うわーめんどくせー)…長い話だし、オレは中国語上手くないから、やめとくよ」
警官:「知ってるんだろ? 話せよ。練習だよ練習、中国語の」

 自分はこのとき、スパイ容疑をかけられていたらしかったので、自分から「知っている」と言ったことを間違えると、どんなことになるかわからない。稚拙な語学力で水滸伝のあらましを伝えるのは困難だったので、好漢の名前を羅列してみた。

アジ:「たくさんの好漢が出てくる。林冲、魯智深、武松、李逵… 彼らが梁山泊に集まって、共に戦う話だよ」
警官:「…違うな。それは水滸伝の話じゃあない」

 おいおい。メジャーな人物列挙してるのに、それはないじゃんかよ。ていうか、あんたが水滸伝知らないんじゃない!?
だが、向こうの視線が妙に険しくなってきた。あきらかにこちらを疑っている目だ。このままでは、この後の取り調べに影響しかねない。
そこでふと思いついて、別の筋から話をしてみた。
アジ:「太尉の洪信が、竜虎山にやってきて、張天師に疫病平癒を頼みに来る話でしたね」
警官:「そうだそうだ。それが水滸伝だ」


 かなり部分的にしかなっていないのだが、この男にとってはこれが水滸伝であるらしい。地元ヨイショでうまく切り抜けられたが、こんな第一話以降読んだことなさそうなヤツが偉そうに水滸伝を語る…
それはここが竜虎山だからなのか、あるいは彼が警官だからなのか。
本編のことを論じてやりたかったが、警察による軟禁が続いて精神的に参っていたし、相手が銃を持っていることもあってあきらめた。

九江
九江は水滸伝における江州で、街の中には「潯陽楼」と銘打った酒楼(だかなんだか)も見えた。中には入ってないけど。
水滸伝に関する会話は、この九江に向かう列車の中で出会った若者と交わした。

梁山へ行く、というと、「梁山!水滸!武松!ハッ!ホッ!」と、周囲も省みず小気味よく叫び、拳脚を飛ばすゼスチャーをしてくれた。やっぱり武松人気は強いなー。
余談になるが、これは別の若者との会話。

若者A:「You are is ●△※☆@… おい、お前英語わかるのか?」

 外国人と見ると英語で話しかけたくなるようなのだが、あきらかにおかしい文法で話されても困る。
 そこまで言うのは失礼だと思ったので、普通に「No.」というと、「なんだコイツ、中国語も変だし、英語もできねぇじゃんかよ」と肩をすくめて見せた。
走っている列車の中ではあったが、表に出ろと言ってやりたくなった。

 その若者と、もう一人の連れに対して「梁山に行く」と言うと、
若者A:「梁山ってどこ?」
若者B:「山東じゃない?」
若者A:「梁山って何が有名だったっけ?」
若者B:「さぁ。何も無いじゃん。ねぇ」


 …全然知らないって人もいるのね、やっぱり。
 水滸は後でもいいから、兄ちゃん、とりあえず英語がんばれよ。

つづく

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